令和6年に発表されたデータによると、我が国の高齢化率は世界でもトップクラスで推移しており、65歳以上の高齢者人口は令和5年10月1日現在、3,623万人となり、高齢化率は29.1%となっています。(令和6年版高齢社会白書(概要版)より)
今、日本は多くの人々が健康で長生きできる社会となりました。
しかし、誰もがいつかは迎える「死」
人が死ぬと「相続」が発生します。
私たち日本人は「親が生きている間に死んだ後の話をするのは不謹慎」いう風潮や、お金の話をするのはいやらしい、と、避けて通りがちなりますが、親が生きている間にこそ、親も交えて親族間でしっかりと相続について話し合いをしておかないと、実際に相続が発生してからでは、故人の遺志はさておき、相続人それぞれの思惑が交錯し、親族間で紛争に発展しかねません。
相続が紛争にまでいたってしまうケースで多いのは、相続人が複数存在する場合の遺産の配分についてです。
以前、京都の有名な帆布製品の製造・販売する会社の会長が亡くなった際に、兄弟間で発生した相続揉めはテレビでも取り上げられるくらい話題になりましたね。
この帆布製品会社の場合、複数存在していた遺言書が紛争の火種となったようですが、本来であれば、生前に有効な遺言書を作成しておくことは相続による紛争を回避する有効な手段です。
遺言書を作成することで、故人は自分の意思を相続に反映させることができます。
生前、自分と一緒に住んでお世話をしてくれた娘に自宅の土地を相続させて、息子には別の土地を分ける、など、予め定められた形式に則って書面化しておくことで、自分の死後にもその意思を表明することができるのです。
遺言を残す際、動画データ、音声データなどでは、正式な遺言とみなされないので注意が必要です。
しかし、一般的な相続のケースでは、分配できるほど多くの資産を保有している場合よりも、相続財産が自宅不動産のみという事の方が多いかもしれません。
親が死亡したことにより、親の家が空き家となってしまった場合、この家を売却して売却代金を相続人で分けることが可能ですが、相続人のうちの誰かが、死亡した親と同居していて、引き続きその家に住んでいる場合には問題が発生することがあります。
親が遺言を残していない場合、相続人間で遺産分割協議を行い、相続の内容を確定し、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割については、民法に法定相続分の定めがあり、仮に相続人が配偶者と子供が2名の場合、配偶者は1/2、子Aが1/4、子Bが1/4となります。
法定相続分通りに遺産分割協議が整い、全員が納得して相続を完了できればいいのですが、特に生前に親と同居して、介護などしていた人であれば「最後まで親の面倒をみていたのだから自分にはこの家をもらう権利がある!」と主張し、話し合いが紛糾することがあります。
そのような場合、家を相続する人が他の相続人に現金を提供し、自宅は単独名義で相続することができれば問題はないのですが、他の相続人に提供する現金も持っていない、でも家には住み続けたいので売りたくない!となった場合は親族間での紛争に発展してしまいます。
相続人間で遺産である不動産を共有することも可能ですが、実際に共有者全員で不動産を使用収益することは不可能ですので、相続人同士が紛争に発展するような関係性であれば、共有はあまり現実的ではありません。
相続はもめにもめると法定にもちこまれ、時間も労力も要し、親戚縁者の人間関係を破綻させてしまうこともあり得るのです。
このような紛争を回避するため、生前に遺言書を作成することも有効ですが、生きている間に不動産を売却して現金化しておき、相続発生時の遺産分割を容易にすることも手段の一つです。
しかし、生前に家を売却するとなると
「家を売ってしまったらどこにすめばいい?この年になって住み慣れた我が家を離れるのもいやだし、そもそも高齢者だと賃貸を借りるのも難しいのに!」
という不安の声が聞こえてきそうですね。
実は今、そのような不安を解決できる「セール&リースバック」と呼ばれる制度がシニア世代に大きく注目を浴び始めています。
このセール&リースバックとは、不動産業者などに一旦自宅を売却したのち、自宅を買取った不動産会社から自宅を賃貸してそのまま住み続ける契約形式です。
自宅の所有権は当然に買主である不動産会社に移転するのですが、売主は買主からそのまま自宅を賃貸することで、住み慣れた自宅から引っ越すことなく、売却代金を手にすることができ、家を現金化することができるのです。
一つの不動産を物理的に分割することは現実的にはなかなか難しいのですが、金銭であれば、その分割は容易になり、相続が発生した際には相続分に基づいて公平に分けることが可能になります。
まだセール&リースバックを扱っている不動産会社は多くはありませんが、これからの超高齢化が加速していく社会情勢を鑑みると、今後セール&リースバックを取り扱う会社は増えてくるでしょう。
自分が亡くなった後、遺産である不動産をめぐって紛争が起こるのではないかという不安や、自分が生きている内に少しでも紛争の火種は消しておきたい、という親心に応えることができる制度ですので、相続における紛争回避の一つの手段として検討してみるのもいいかもしれませんね。